先日初めて自動運転の車に乗った。今から3年前の深夜に、サンフランシスコのダウンタウンの国道で車の上に大きな機械を乗せた車がうじゃうじゃ走っていて、友人に「あの車は何?」と質問してみたら、「自動運転の練習車だ」と教えてくれたのを思い出した。技術がメチャクチャ進歩するのは良いと思うけど、一方で今回クリスのパズルを一から金型で作ってみて、つくづくアナログの技術と職人の経験は数値化できないなと思った。
2020年の春くらいにクリスに「一緒にパズルを作らないか」と連絡を入れて彼とのパズル作りはスタートした。
クリスのメッセージはいつも低姿勢で丁寧で申し訳なさそうな独特の言い回しなんだけど、「こんなこと絶対に無理だと思うし、贅沢すぎて君たちを破産に追い込むことになってしまうかもしれないんだけど通常のパズルピースの形ではなく、自分が考えた独自の形にすることは可能かい?」とリクエストがあった時は考えていたことが同じだったので、とても嬉しく「もちろんそのつもりだよ!」とコストも考えずに即答した。つまりありもののパズルピースの抜き金型は使用せず、一からオリジナルの抜き金型を作るということだ。金型は20数年おもちゃで関わってきたので、すごくお金がかかるのはわかっていたし不安もあったけど、同時に金型をクオリティ高く作るのは自信があったのでやってみたいと思った。「面白くなってきた!」とワクワクした。
しかし、ハードルは思ったよりも高く、決してとんとん拍子には行かなかった。同時に今や米国を代表する作家で寝る暇もないくらい超売れっ子のクリスが商品化されることを楽しみに気合十分にデザインを上げてくれた渾身の美しいプロダクトである。決して中途半端なものを作ることは出来ないし、彼の思いに誠実に応えなくてはいけなかった。結局この金型の微調整で印刷工場や金型工場とあーじゃないこうじゃないと、、、金型だけで半年以上(!)時間を費やしてしまった。おもちゃの金型も思い通りの形にするのはものすごく難しいけど、パズルの金型はそれ以上だった。細かくは書かないけど、このパズルは巧妙にいろいろギミックが隠されていて、そのギミックの互換性を持たせるために、絶対にズレていけない箇所があり、それを金型で合わす作業がまーーーー大変!一つ合わせると他がズレるの繰り返し。また、紙に印刷されたパズルの絵を裏にのりを塗って厚い台紙に貼るのだけど、ここの工程で紙が気持ち必ず縮む。どこの箇所が縮むかはその時の気候だったり、ノリの濃さだったり、インクの種類だったり、紙の種類により違ってきて、色々な紙に印刷して縮み具合をデーター化してそれを繰り返しながら、金型の微調整をしてようやくつい先日納得いく形まで持っていくことが出来製造に入れたというわけだ。
これは、いくらAIが発達してるとは言えデジタル技術だけを頼っての落とし込みは無理だったと思う。
最終的には印刷所と金型職人さんの技が勝ちました!
と言う事で、クリス自身も大変気に入って満足してくれたこの『ビルディング・ストーリーズ』のパズル、発売は伸びに伸びましたが、秋頃に発売予定です。非常に時間をかけて丁寧に作ったパズルですし、クリスならではのサプライズや仕掛けがたくさん隠されているので、楽しめること間違いなし。また、なんでもデジタル化されたこの時代に、手に取って触れて部屋に置いて眺めるだけで幸せな気分になれる美しいパッケージも自信を持ってお届けします。 - ✍峯岸
・ ・ ・ ・ ・ ・
📗『ビルディング・ストーリーズ』は、アメリカのコミック作家 クリス・ウェアが2012年に発表して数え切れないほどの賞を受賞したグラフィックノベルです。この型破りで圧倒的なボリューム感のある作品は、14冊の印刷された書籍、新聞、雑誌、ブランケット版、パラパラ漫画、等がボックスセットになっています。10年の歳月をかけて完成した本作は、Pantheon Booksから出版されています。シカゴに住む下肢を失っている無名の女性主人公を中心に、複雑で重層的なストーリーが展開されています。若い頃の腐ったような皮肉から、大人になってからの気持ち悪いほどの真面目さまで、想像できる限りの芸術的、詩的嗜好に対応できるよう、十分な量のバラエティに富んだ読み物が用意されています。一人でいて孤独な人、誰かと一緒にいても孤独な人、、、人生を無駄にした、チャンスを逃した、創造的な夢が破れた、といった押しつぶされそうな感覚を持つ全ての人にそっと寄り添うような名著です。
・ ・ ・ ・ ・ ・
🧩 『ビルディング・ストーリーズ・ジグソーパズル』1000 (1125)ピース・サイズ49cm×60cm・¥5000(税別)・Jan: 4560247870591(予約は7月末から開始します)
数々の賞を受賞したクリス・ウェア氏の傑作グラフィックノベル『
🇯🇵東京にお住まいの方(コロナ禍なのでこのような書き方をします)は7月7日(七夕)〜11日まで西荻窪のFALLにてパズルの見本を展示して先行予約を受付いたします。近くまでお越しの際には、ぜひお立ち寄り下さい!
・ ・ ・ ・ ・ ・
CHRIS WARE(クリス・ウェア)は、現在の米国及び世界的なグラフィックノベルの分野を代表する類いまれな才能を持つ作家である。『世界一賢い子供、ジミー・コリガン』は、ガーディアン・ファースト・ブック・アワードを受賞し、2009年にはザ・タイムズ(ロンドン)紙の「この10年のベスト100冊」に選ばれた。『ビルディング・ストーリーズ』は、ニューヨーク・タイムズ紙とタイム誌で、2012年のフィクション・ブック・オブ・ザ・イヤーのトップ10に選ばれている。ウェアはザ・ニューヨーカー誌に不定期で寄稿し表紙も現在まで25回飾っている。彼の原画はホイットニー・ビエンナーレやシカゴ現代美術館で展示されているほか、イリノイ州オークパークにある彼の自宅の作業台の後ろに山積みされている。2016年にはPBSのドキュメンタリー・シリーズ「Art 21: Art in the 21st Century」に登場し、2017年には彼の作品の名を冠したモノグラフがリゾーリ社から出版されている。2021年現在開催されているシカゴ現代美術館でのグループ展「Chicago Comics:1960’s to Now」ではウェアの作品が大々的に紹介されている。ウェアの作品は、彼の愛する20世紀コミックとグラフィックデザインのアメリカ美術の集合体であり、古典的なコミック・ストリップから広告、ペーパークラフトまで様々なスタイルが複雑に絡み合いながら深いペーソスに満ち溢れた独特の世界観を作り上げている。2021年のアングレーム国際漫画祭ではついに“グランプリ”を受賞。日本では『世界一賢い子供、ジミー・コリガン』の日本語版がプレスポップから出版されている。